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東京地方裁判所 平成9年(ワ)19779号の乙 判決 1998年10月30日

東京都豊島区巣鴨二丁目一一番一号

原告

日水製薬株式会社

右代表者代表取締役

富本善久

右訴訟代理人弁護士

坪田潤二郎

坪田真智子

東京都千代田区東神田一丁目一一番四号

被告

株式会社ヤトロン

右代表者代表取締役

内藤修

東京都千代田区東神田二丁目五番一二号

被告

株式会社ダイアヤトロン

右代表者代表取締役

内藤修

被告ら訴訟代理人弁護士

宇井正一

花岡巖

新保克芳

被告ら補佐人弁理士

日野あけみ

大屋憲一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  原告は、その有する特許権(登録番号第一七七九一七七号)に基づき、被告株式会社ヤトロン(以下「被告ヤトロン」という。)が別紙物件目録一記載の物件を製造、販売することを、また、被告株式会社ダイアヤトロン(以下「被告ダイアヤトロン」という。)が右物件を販売することを、それぞれ差し止める権利を有することを確認する。

二  被告らは、原告に対し、各自金六〇〇〇万円及びこれに対する平成九年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告らによる商品の製造販売が原告の有する特許権を侵害(間接侵害)すると主張して、被告らに対して差止請求権の存在確認及び損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(特に断らない限り当事者間に争いがない。)

1  原告の有する特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。

発明の名称 免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法

出願日 昭和五七年六月三日

公告日 平成四年二月一九日

登録日 平成五年八月一三日

登録番号 第一七七九一七七号

特許請求の範囲 別紙「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり(以下、右出願公告公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)

2  本件発明の構成

a 検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、

b 検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、

c 生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、

d 生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、

e これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

f それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、

g 一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法

(なお、原告は、同第二〇六一六号事件において、右分説と異なる主張をするかのようであるが、平成九年(ワ)第一九七七九号の乙事件においては当事者間に争いがないことに照らして、右分説について争いがないと判断する。)

3  被告らの行為

被告ヤトロンは、別紙方法目録一、二記載の方法(ただし、被告らは、ブランク液として生理食塩水を用いることを否認する。以下、両方法を併せて、右争いのある部分も含めて「イ号方法」という。)の実施に使用する別紙物件目録一、二記載の物件(以下、両物件を併せて、「イ号製品」という。)を業として製造し、その全量を被告ダイアヤトロンに販売しており、被告ダイアヤトロンは当該製品を「イアトロメイト」、「イアトロメイトA」という商品名で医療機関や検査機関等に販売している。

なお、イ号方法は、日立七〇五形自動分析装置又は日立七〇五〇形自動分析装置により実施することができる。

二  争点

1  イ号方法と本件発明の構成の対比

(原告の主張)

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成をすべて充足する。

(一) 本件発明の技術思想について

(1) 本件特許方法の特徴

本件特許方法の測定原理は、免疫比濁法(Turbidimetry)を適用してエンドポイント法により血清CRPの定量を行うというものである。また、本件特許方法の特徴は、緩衝液ブランク、試薬ブランク、検体ブランクを厳密に差し引くことを必須要件とすることにより、血清CRPの低量域の測定を可能としていることにある。

(2) イ号方法の特徴

<1> 日立七〇五形又は同七〇五〇形自動分析装置の反応容器に、検体が自動的に採取され、これに緩衝液R-1が自動的に加えられる(以後、この液をイ号1液という)。

<2> イ号1液が反応する。

<3> 右の液の吸光度A1が測定される。

<4> 次に、同反応容器内のイ号1液に抗CRP血清溶液R-2が追加分注される(以後、この液をイ号2液という)。

<5> イ号2液が反応する。

<6> 右の液の吸光度A2が測定される。

<7> 装置内蔵のコンピューターにより AX=A2-A1が演算されAXが得られる。

<8> 同様に、検体に代えてブランク用の精製水又は生理食塩水を用いて右記<1>と同様の操作が行われる(以後、この液をイ号3液という)。

<9> イ号3液が反応する。

<10> 右の液の吸光度A3が測定される。

<11> 反応容器内のイ号3液に抗CRP血清溶液R-2が追加分注される(以後、この液をイ号4液という)。

<12> イ号4液が反応する。

<13> 右の液の吸光度A4が測定される。

<14> WX=A4-A3が演算され、WXが得られる。

<15> ACRP=AX-WXが演算される。

<16> 以上と同様の操作がCRP既知濃度の標準品についても行われ、CRP濃度と吸光度との関係が演算される。

<17> <15>で求めた血清CRPの免疫反応による生成物質の吸光度から、検体中のCRPの濃度が算出される。

イ号方法も、被告製品の使用説明書の「3測定方法(測定原理)」に「本測定方法は抗原抗体反応を利用した免疫比濁法です」と記載され、また、日立七〇五形自動分析装置の使用説明書においてイ号方法の測定モードがエンドポイント法に分類されていることから明らかなとおり、その測定原理は免疫比濁法のエンドポイント法により血清CRPの測定を行うというものである。

したがって、イ号方法は、測定原理と特徴において、本件特許方法と同一である。

(二) 構成要件「a」ないし「d」について

(1) 四種の液の調製

本件特許請求の範囲において、被験液T、検体ブランク液SB、試薬ブランク液RB、緩衝液ブランク液BBの四種の液を調製することを要求しているところ、イ号方法においても、これら四種の液を調製している。イ号1液は検体と緩衝液R-1との混合液であるから検体ブランク液SBに該当し、イ号2液はイ号1液と抗CRP血清溶液R-2(抗血清と緩衝液との混合液)との混合液、すなわち検体と抗血清と緩衝液との混合液であるから被験液Tに該当する。イ号3液は精製水又は生理食塩水と緩衝液R-1との混合液であるからBBに該当し、イ号4液は精製水又は生理食塩水と抗血清溶液R-2との混合液すなわち精製水又は生理食塩水と抗血清と緩衝液との混合液であるから試薬ブランク液RBに該当する。

(2) ブランク液の同一性

ブランク液として生理食塩水を用いる場合は本件発明方法と全く同じであるが、精製水を用いる場合も、ブランク液としての生理食塩水と精製水とは以下のとおり均等の関係にあるから、本件発明方法と法的に同じである。

本件発明方法とイ号方法とは、前記のとおり、基本とする技術思想が共通である。また、精製水は、かかる技術思想の中で、試薬と目的反応を生じず、各液の吸光度に影響を与えないという機能において生理食塩水と同一であるから、精製水と生理食塩水との置換には、等値の関係が成り立っている。さらに、当業界においてブランク値を測定するに当たっては、精製水と生理食塩水とを自由に置換して使用しているのが実情である。

よって、イ号方法は、ブランク液において本件発明方法と均等であり法的に同一である。

(3) イ号2液及びイ号4液と「被験液T」及び「試薬ブランク液RB」との同一性

本件特許請求の範囲においては、四種の液の調製の順序、調製方法等について何らの限定をしていないのであるから、イ号方法では、イ号1液にR-2を追加する方法でイ号2液を調製しても、イ号2液は本件特許の「被験液T」に該当する。イ号4液も同様の理由により本件特許の「試薬ブランク液RB」に該当する。

被告らは、検体血清と緩衝液(R-1)は5分間ではあるが一部反応済みであるため、例えば、R-1中には界面活性剤が含まれており、検体血清中の乳び成分が可溶化するため、検体血清の吸光度は減少しているのであるから、これは、本件特許請求の範囲でいう「被検液T」に該当しない旨主張する。本件発明の実施例中には、検体ブランク緩衝液や抗血清使用液に界面活性剤その他の反応制御成分を添加したものがあり、そのような実施態様においては、乳び検体という例の少ない特殊な検体において被告ら主張のような現象が生じ得るが、このような稀な事例においてこのような現象が生じ得ることを理由として、イ号2液が「被験液T」に該当しないとすることはできない。つまり、界面活性剤等の添加は、本件発明の構成要件とは別に、実施に当たり付加される事柄であるから、本件発明の構成要件充足性とは関係がない。

(4) 四種の液の液量

本件特許請求の範囲においては、四種の液の分量又は分量比について何ら制限を設けていない。被告らは、各液の分量を同量にすることが、本件発明の構成要件であるかのごとく主張するが、明細書の「特許請求の範囲」のどこにもそのような記載はない。明細書の実施例はあくまでも一実施例であって、本件特許のクレームの解釈を一実施例に限定することは許されない。

(三) 構成要件「e」について

(1) 「プラトーに達せしめ」の意義

構成要件「e」における「インキュベートしてプラトーに達せしめ」とは、反応のための時間をおいて、吸光度の経時的変化を示す曲線を高原状態に達せしめることを意味する。高原状態とは同曲線の勾配が急峻な状態を脱してなだらかになった状態をいう。

目的物質による反応生成物の量(吸光度により測定)から目的物質の定量を行うエンドポイント法は、元来生化学反応による定量方法であった。これを免疫反応による比濁法に応用して、従来のCRP定量法ではできなかった課題を解決したのが本件発明である。しかし、免疫反応では、生化学反応におけるように反応終了点が明確ではないし、反応を完全に終了させなくても、反応曲線がプラトーに達した状態で測定すれば検査目的に適った精度の定量が可能である。そのため本件発明は、「インキュベートしてプラトーに達せしめ」ることを構成要件としている。

被告らは、エンドポイント法は反応の終末点で測定を行う方法であることを理由に、「プラトー」とは反応の終末点である旨主張する。しかし、本件特許方法は免疫反応にエンドポイント法を用いる方法であるから、反応終末点に限定した被告らの解釈は失当である。免疫反応は、生化学反応と異なり、最終段階(プラトー状態)に入ってからも少しずつ続き終了点が明確でない特性がある。また、本件発明は、検査実務に使用する方法に関するものであるから、検査実務上必要な精度が得られれば足りる。これらの理由から、本件発明の構成要件eは、「反応の終末点」ではなく、「プラトーに達せしめ」としたのであり、これらの点を看過した被告らの解釈は不当である。

(2) イ号方法の測定原理と測定時期

イ号方法はフイックスドタイム法を用いる方法であるが、フィックスドタイム法は、自動分析装置と当該自動分析装置の設定時間内に反応が最終段階(プラトー)に達するよう調整された自動分析装置専用の試薬とを用いて、設定された一定時間後に吸光度測定を行う点に特長がある。このように、フィックスドタイム法は、一定時間経過後に吸光度測定を行うものではあるが、同装置用試薬を用いることによりエンドポイント法の原理を用いて定量を行うので、一般にエンドポイント法の一種として分類されている。日立七〇五形自動分析装置の取扱説明書、同七〇五〇形自動分析装置の取扱説明書の記載においても、イ号方法の実施モードである2ポイントアツセイ(これはフィックスドタイム法である)はエンドポイント法の一種として記載されている。

被告らは、エンドポイント法の中には、反応の開始の一定時間後に反応が終了していなくても測定を行うフイックスドタイム法も含まれるところ、イ号方法ではインキュベートしてからほぼ五分後に測定するのであるが、この段階では、反応が完了していないことは勿論、吸光度が変化しない状態にも至っていないから、「プラトーに達せしめ」に該当しない旨主張する。しかし、フィックスドタイム法では使用試薬との関係で、反応が最終段階に達したところで測定を行う。フィックスドタイム法は、「反応が終了しなくても測定を行う」のではなく、自動分析装置では反応の最終段階で測定を行っていることを機械的に確定できないというに過ぎない。エンドポイント法では、原理的に反応が最終段階に達しない時点で測定しても正確な定量はできないのであるから、検査実務上要求される精度の定量を行っているというそのこと自体が、イ号方法では反応の最終段階で測定を行っていることを示している。イ号方法では、本件発明方法と同じく反応の最終段階(プラトーに達した段階)で吸光度を測定している。仮に、たまたま試薬の性能等の関係で反応の最終段階に達しない時点で測定する場合が生じ得るとしても、それは測定の迅速性や商業的利益のために測定精度を犠牲にしているということに過ぎず、イ号方法が本件特許方法の技術的範囲に属していないということにはならない。

以上のとおり、イ号方法は、自動分析装置と同装置向け試薬を用いてプラトーに達した後に吸光度を測定している。

(3) 反応所要時間の調整可能性

自動分析装置用のCRP定量試薬は、当該自動分析装置の設定時間内に、目的反応(試薬-CRP間の反応)が終了するように調整されている。被告らは、ポリエチレングリコールは懸濁粒子の濃度を増加させるためのものであるとして、この事実を否定するが、「懸濁粒子の濃度を増加させる」とは、反応を促進することにほかならない。

PEG(ポリエチレングリコール)等の非イオン系重合体により反応の感度と迅速性を高めることができる。これらの感度・反応促進剤や界面活性剤等の添加により自動分析装置の設定時間内に反応をプラトーに達せしめることが可能となり、臨床検査のための自動分析装置用CRP定量試薬が開発されるに至ったのである。

(4) 結論

以上のとおり、「プラトーに達せしめた後に」測定を行うことは、エンドポイント法(広義)の測定原理に由来する要請である。フィックスドタイム法を用いるイ号方法においても、この要件を充足することなくして、正確な定量は不可能であるから、イ号方法でも本件発明方法と同じく「プラトーに達せしめた後に」測定を行っている。

(四) 構成要件「f」について

(1) 構成要件「f」における計算式の意味

本件発明の構成要件fにおける計算式ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)は、エンドポイント法の測定技術思想を表現するものである。すなわち、右計算式は、CRPの免疫反応による吸光度について、被験液Tの吸光度から各液(検体、抗血清使用液、緩衝液)のブランク値を差し引くことにより得ることができるという技術思想を過不足なく正確に表現したものである。このように、同計算式はエンドポイント法の技術思想の表現であって、エンドポイント法により定量する方法の必須要件のみを表現している。

ちなみに、特許異議申立理由書の添付書類であるクリニカルケミストリイの論文八九〇頁右欄中央部付近には、酵素反応に関するエンドポイント法の測定原理を表す式が記載されているが、これも本件発明の算定式と同じく補正係数を含まない、すなわち酵素反応に関するエンドポイント法の必須要件のみを表す式である。しかも、後述のとおり、この文献は酵素反応という異なる技術に関するものであるから、本件発明の先行公知技術ではない。よって、特許請求の範囲を縮小解釈すべきものとはならない。

(2) 液量補正係数kの意味

補正係数kは、本件発明の構成要件fにおける計算式の本質的要素ではない。一般論としても、補正係数は数式の本質的部分を構成するものではない。補正係数kの有無によって計算式が別の異なるものとなるわけではない。補正係数kは、計算式の適用上の修正ないし補正を意味するに過ぎないからである。

具体的に説明すれば、補正係数kは四種の液の液量が異なる場合に、液量の違いによる影響を修正するものである。

イ号方法の場合のように、四種の液の液量が異なることがある。この場合、測定された吸光度を比較するためには、液量が等しいときの吸光度に補正してから比較する必要があり、これが係数kによって行われているのである。日立七〇五形自動分析装置ではなるべく多くの項目を測定できるようにするため、2ポイントアッセイ(検体ブランク補正のエンドポイントアッセイ)を1チャンネルで行う設計になっている。すなわち、検体ブランク液と被験液とを一つの容器で調製し、液量の相違が生じるという問題は係数kによって補正するという方式を採用している。本件発明の構成要件fの計算式に用いる吸光度は、補正後の吸光度が用いられているのであり、計算は、本件発明のとおりに実施されている。

具体的には次のとおりである。

イ号1液は検体(S)と緩衝液(R-1)との混合液である。

イ号2液は検体(S)と緩衝液(R-1)と抗CRP血清溶液(R-2)の混合液である。

したがって、イ号1液はイ号2液に比較してR-2分少ないので、イ号2液との比較では、液量補正前のイ号1液の吸光度をAとした場合、液量補正後のイ号1液の吸光度A'は次のようになる。

<省略>

この<省略>が補正係数kであり、日立七〇五形自動分析装置の使用説明書の2ポイントアッセイを適用する場合の計算式に記載されている。

(3) 実施態様により追加される工程

特許請求の範囲には、様々な実施態様に共通な必須要件のみを記載しているのであるから、特定の実施態様に特有な事項をこれに付加して行ったとしても、発明の技術的範囲に含まれるということができる。本件特許請求の範囲において、四種の液の液量につき何らの限定をしていないということは、四種の液の液量が様々に異なる実施態様を採ることを容認し、予定しているということである。したがって、本件発明は、自動分析装置による測定の場合に必要となる前記のとおり液量補正を本算定式適用の準備として行うことを、当然に容認し、予定している。含まれる液が液量の変化により希釈されたときはその分濃度吸光度を補正をすべきことは自明のことであり、当業者の常識である。

また、日立七〇五形自動分析装置は、本件特許出願当時の最も便利な自動化のための機器であり、本件発明は、自動化を視野に入れての出願であったから、本件特許請求の範囲は、同自動分析装置を使用する実施態様を念頭に置き、これを包含するものとして記載されたことは明らかである。液量補正(k)は、本件発明が予定する態様の実施方法のために必要な補正であるから、自動化に際して適宜なし得るのは当然であり、液量補正(k)をもって、本件発明における計算式と異なるものとすることはできない。

(五) 禁反言の主張ないし出願前公知の主張に対して

(1) 異議申立に対する答弁

高橋栄古による異議申立は、日立七〇五形自動分析装置の存在及びそれに組み込まれた計算式の存在などを理由として発明の容易性を主張した。これに対し、本件発明は、従来技術が解決できなかった血清CRPの低量域(一ミリグラム/デシリットル付近)の測定を可能とし、なおかつ、それが簡易迅速な方法であるという利点が認められて特許された。

被告らは、原告が、異議申立の答弁書において、本件発明を自動分析装置では実施しないと述べたことにより、はじめて特許が認められたと主張するが、右主張は誤りである。

原告が右答弁書(甲第一五号証)において述べた内容は、本件特許の出願時点では日立七〇五形自動分析装置は生化学物質の測定用として設計されており、血清CRPの定量用として計算式が組み込まれている事実は存在しなかったこと、また、当時の該装置の2チャンネル測定では検量線を作成するにも、手計算を必要とする等の問題があったので、本件発明方法を該装置により実施するに際しては、試薬の量や計算パラメーターの変更等が必要であり、したがって、該装置に本件特許の理論と同じ理論が生化学物質の測定用として取り込まれていても、特許法第二九条二項によって発明の新規性を喪失するものではないことである。

この点を詳細に述べる。右答弁書中には、「本願発明方法において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しない」との記載がある。この文の意味は、「これらについて更に詳細に述べます。b)・・・ c)・・・」として、右記載の直後に詳しく説明されている。すなわち、免疫比濁法によるCRPの定量法と酵素基質反応(生化学反応の一つ)による酵素の定量法とは、共に四種の液の吸光度値を共通ともいえる計算式に代入している。しかし、酵素基質反応を利用した定量法では緩衝液ブランク液BBに関する吸光度ABBを無視し得ることが実証されており、また、実際には測定されていないのに対して、免疫比濁法によるCRP定量では緩衝液ブランク液BBの吸光度測定が重要な意味をもっている。また、日立七〇五形自動分析装置は比色定量を基本とする生化学反応用に設計されているが、右記のような理由により、緩衝液ブランク液の吸光度ABBの概念が導入されているとはいえない。以上がその文意である。すなわち、原告は、日立七〇五形自動分析装置には本願発明方法において規定されている計算式(理論)が組み込まれているとはいえないと述べたのである。

また、原告は、右特許異議答弁書一二頁一四行目から末行までにおいて、用手法用の試薬を用いて自動分析装置で二チャンネル測定を行うと問題が生じたことを述べている。しかし、原告は、右部分に続いて、「種々の変更(試薬や装置の計算パラメーターの変更等)を加えることにより当該分析装置による自動測定の適用に成功し」と述べている。すなわち、一チャンネル測定で本件特許を実施することに成功した旨述べているのであるから、本件発明の実施には二チャンネル測定が必要であると述べたことにはならないし、まして、二チャンネル測定が必須であると述べていないことは明らかである。

原告は、北端勲による異議申立に対する答弁書(甲第二〇号証)においても、原告が開発した自動分析装置向けの試薬について「TIAテスト-CRP『ニッスイ』・・・こそ本発明を具現したもの」と述べ、また、本件発明を日立七〇五形自動分析装置により実施する場合の「課題が解決できたからこそ、本願が特許出願されたのです」とも述べている。被告らは、本件特許の本質は用手法を基本とした定量法である旨主張するが、誤りである。

(2) 出願前の公知技術の状況について

(ア) 日立七〇五形によるCRP定量方法の非公知性

昭和五五年一〇月に第一号機が出荷されたと被告らが主張する日立七〇五形自動分析装置の取扱説明書には、CRPは測定項目として記載されていない。測定項目として「8:B-L」と記載されているのみであるが、これは当時同装置でCRP定量が行われていなかったことを示す。

被告らは「免疫比濁法で、試薬ブランク、検体ブランク、バッファーブランクの各ブランク液の吸光度を加減する計算(但し、2ポイントアッセイ法)が右七〇五形自動分析装置では自動的に行われていたのである」と述べるが、本件特許出願当時には、同装置はベーターリポ蛋白(B-L)のように血清中に高濃度で存在する物質の定量には使われたが、血清中の微量成分であるCRPの定量に関しては、使用可能であるとは考えられていなかった。昭和五五年九月発行の日本臨床検査自動化研究会誌演題25の緒言には「検体ブランク補正を省略するために数年来、種々のアプローチがなされてきた」(乙第一一号証の八)とあるとおり、当時はブランク補正をしない方向に向かって研究がなされていたのである。特許異議の決定においても、「この装置には本願発明のCRPによる検体血清の吸光度の算定式あるいはそれを示唆する概念は導入されていないというべきである」とされている。

原告が本件特許方法を発明し、また、本件特許出願後に原告が同装置向けのCRP定量試薬を開発し販売したので、その時以降同装置によるCRP定量が可能になったが、それ以前には同装置によるCRP定量は全く不可能であった。同装置に発売当初から2ポイントアッセイの分析モードがあったということは、同装置発売当初から同モードによるCRP定量が可能であったことを意味しない。

原告は、生化学反応による定量に用いられていたエンドポイント法の算定式をCRPの免疫反応による定量に応用する本件特許方法を発明し、さらに、本件特許方法を汎用自動分析装置により実施する方法、及びそのための試薬を開発することにより、右定量を可能としたのである。

(イ) セールスインフォメーションヘの記載と公知性

セールスインフォメーション(甲第一九号証)は、以下の理由によりイ号方法が公知であったことの証明にはなり得ない。

甲第四三号証の六(回答書)には、「技術的な説明をした部分については、販売会社、アフターサービス会社の判断に基づき、顧客に渡すことができます」(同8項)と記載されている。一般に頒布されたものでなければ、特許法上の頒布された刊行物には該当しないというべきであるから、セールスインフォメーションに「顧客に渡すことができます」と記載されていたからといって、頒布された刊行物であるということにはならない。

同回答書には「技術的な説明をした部分については、販売会社、アフターサービス会社の判断に基づき、顧客に渡すことができます」と記載されているが、実際に顧客に渡したとは書いてないから、不特定人に渡したことにはならない。

また、日立製作所佐藤氏の被告ヤトロン塩沢氏宛送り状には、「お取扱いにはご注意ください」(甲第二四号証)と記載されていることから明らかなとおり、技術説明部分を顧客に渡す場合にも、第三者に渡らないよう注意する義務(守秘義務)を課している。これは特許法二九条一項三号にいう「刊行物」ではないことを示す。

(被告らの反論)

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成を充足しない。

(一) 本件発明の技術思想について

(1) 明細書の記載

本件発明は、所定の各混合液を調製し、その後それぞれについて吸光度を測定するものである。本件特許方法は自動分析装置に応用することも不可能ではないが、本質的には用手法が想定されている。そして、本件発明は、本来、四本の試験管を用い、それぞれについて吸光度を一回測定するもので、いわば「四チューブ一測光法」ということができる。

このことは、明細書の記載(第4欄36行以下)に次のように示されていることから明らかである。

<省略>

(2) 出願の経緯

本件特許出願に関する補正等の経緯に照らせば、本件発明は、各ブランク液の吸光度を補正するという原理ではなく、四つの一ポイントアッセイを行うという特種の方法を対象にすることは明らかである。

出願経緯は、以下のとおりである。すなわち、

(ア) 本件特許出願後、特許請求の範囲の記載が一部補正され、次のとおりとなった。

「被検液(T)及び試験液(RB)並びにこれらのブランク液(SB及びBB)を調製し、これらをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(イ) これに対して、審査官から、「臨床検査臨時増刊第二三巻一一号」を引例として、そこにブランクを差し引くことが記載されている旨の拒絶理由通知が発せられたので、出願人である原告は、意見書を提出したが、審査官は、「免疫比濁法により、各種の抗原成分を測定することは、本願出願前より周知であり(例えば、特開昭52-125623号)、これを、CRPの測定に適用することは、当業者が容易になし得たものと認められる」との理由により、拒絶査定を行った。

(ウ) そこで、原告は、審判請求を行うと共に、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明を大幅に補正し、現在の特許請求の範囲とした。

そして、原告は、右補正に基づき、審判請求の理由として、「前審審査官のなされた拒絶査定は、補正前の請求に関しては仮に妥当であるにしても、上記の新請求の範囲に関しては妥当なものとは云えなくなるものと確信しますので、以下その理由を述べます。」とし、続いて、拒絶査定での引例は、「免疫比濁法による測定原理そのものであり、当該原理に基づくものであり且つ特許保護の対象となるべき特定の具体的な手法ではないのです。」と主張した。

そして、本件発明の内容について、次のとおり主張した。

「a)下記の4種類の液、すなわち

ⅰ)被験液(T):

検体血清と抗血清使用液との混合液、

ⅱ)検体ブランク液(SB):

検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液、

ⅲ)試薬ブランク液(RB):

生理食塩液と抗血清使用液との混合液、

及び、

ⅳ)緩衝液ブランク(BB):

生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液

とを調製し、

b)上記の各液を、それぞれ、インキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

c)各液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、

d)得られた各吸光度値を次式、すなわち

AT-ASB-(ARB-ABB)

に算入して得られた値を検体血清の吸光度(ACRP)とし、

e)上記のa)-d)項と同様にして、但し検体血清の代わりにCRP濃度が既知の且つ種々濃度のCRP標準液を用いてインキュベートし、プラトーに達した各液の吸光度を測定することにより吸光度値とCRP値乃至濃度との関係を示す、所謂「標準検量線」を予め作成しておき、

f)前記のd)項での算出により得られた吸光度値(ACRP)を上記のe)項で得た標準検量線に照合するのです。

このような本発明方法、殊に上記の工程の内のa)-d)の工程[工程e)及びf)自体周知の工程です]は前審引例文献に開示はおろか、示唆すらされておらず、又当該分野の通常の技術者が窺い知り得る処ではなかったのです。」

このように、出願人である原告は、特許請求の範囲の補正によって、単なる原理でなく、右ⅰ~ⅳの構成からなる液を調製し、それぞれインキュベートして測光するという具体的な方法(四つの1ポイントアッセイを行う方法)を明らかにしたことを強調し、その結果、右補正後の特許請求の範囲で、「本願の発明は特許をすべきものとする」との審決を受けた。

(エ) そこで、拒絶査定を受けた補正前の特許請求の範囲と、特許すべきものとされた補正前後の特許請求の範囲を比較すると、次の傍線を引いた部分が補正された。

「検体血清と抗血清使用液との混合液である被検液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

補正前の特許請求の範囲はわずかに「被検液(T)及び試験液(RB)並びにこれらのブランク液(SB及びBB)を調製し」と記載されているだけであって、それら各液については何らの限定もなかった。また、四種類の液を「インキュベートし、プラトーに達せしめ」るに際して「それぞれ」行うという限定もなかった。そのため、実質的に各ブランク液の吸光度を加減するという原理に従いさえすれば足りるかの如き、きわめて広いクレームであった。これに対し、右補正によって、各液の構成が具体的に特定され、四種類の液をそれぞれ調製し、それぞれインキュベートしてプラトーに達せしめ、各液の吸光度を測定することが明示された。

以上の経緯から見て、本件発明は、各ブランク液の吸光度を補正するという原理ではなく、右の特定の方法(四つの1ポイントアッセイを行う方法)を対象にすることは明らかである。

(3) イ号方法の特徴

これに対し、イ号方法では、分析は、検体を用いた場合と精製水を用いた場合が並行して次のように進行する(ただし、吸光度測定は、緩衝液R-1が添加された以降数十秒間隔で経時的に測光されており、指定した演算モードにより自動的に二点の吸光度の平均値を吸光度β、γ、β'、γ'として計算されるものである。吸光度αの測定は略す。)。

<省略>

すなわち、イ号方法は、「検体系」と「精製水系」の二チャンネルについて各一本の試験管を用いてそれぞれ二点の測光値を利用するものであり、いわば「二チューブ二測光法」ということができる。これは、本件特許方法における前記「四チューブ一測光法」とは根本的に異なる。

(二) 構成要件「a」ないし「d」について

(1) 本件発明において吸光度測定の対象として調製される各混合液の構成は、次のとおりである。

被検液T=検体血清+抗血清使用液

検体ブランク液SB=検体血清+検体ブランク緩衝液

試薬ブランク液RB=生理食塩液+抗血清使用液

緩衝液ブランク液BB=生理食塩液+検体ブランク緩衝液

すなわち、四種の測定対象液は、「検体血清」、「抗血清使用液」、「検体ブランク緩衝液」、「生理食塩液」の四種から二種を組み合わせて構成されるものである。

(2) これに対して、イ号方法において使用される液は「検体」、「緩衝液R-1」、「抗CRP血清溶液R-2」、「精製水」の四種である。これらの要素のうち、精製水は生理食塩液とは明らかに異なる。本件発明においては、当初、測定対象液の構成要素は特に限定されていなかったが、拒絶理由に対する補正の際に、生理食塩液と限定されたものであり、血液と塩分濃度を一致させる趣旨であったと解される。

(3) 本件特許方法とイ号方法とは、吸光度を測定する混合液の構成要素の数において相違する。すなわち、イ号方法においては、前述のとおり、「検体系」と「精製水系」の二チャンネルの測定が並行して進行し、検体系試験管と精製水系試験管について所定の液が次のようにそれぞれ順次添加される(なお、緩衝液R-1、抗CRP血清溶液R-2はそれぞれ「R-1」、「R-2」と略記する。)。

検体系試験管=〔検体〕+〔R-1〕+〔R-2〕

精製水系試験管=〔精製水〕+〔R-1〕+〔R-2〕

そして、吸光度を測定する対象液につき、イ号方法では一方で<1>「検体と緩衝液R-1との二液の混合液」の吸光度を測定し、これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた<2>「検体と緩衝液R-2と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」の吸光度を測定し、他方で<3>「精製水と緩衝液R-1との二液の混合液」の吸光度を測定し、これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた<4>「精製水と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」の吸光度を測定する。

(4) したがって、本件特許方法とイ号方法とは四つの測定値を得る点で共通するものの、各測定値は、本件特許においては二液の混合液を四回測定するのに対し、イ号方法では二液の混合液(右<1><3>)を二回、三液の混合液(右<2><4>)を二回それぞれ測定するものであって、その測定する混合液の構成要素の数においてまず異なるのであるから、本件特許方法とイ号方法とが方法自体と異なることは明らかである。

(三) 構成要件「e」について

(1) 本件特許方法では、各測定対象液をそれぞれインキュベートし「プラトーに達せしめた後」に各液の吸光度を測定することを要件としている。

そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、「反応は略々一五分間で一定となり、その後は吸光度が変化しないことが判明した(第一図参照)。これはインキュベート時間が一五分程度で充分なことを示している。」(本件公報五欄二一~二四行)と記載されていることから、本件特許において「プラトー」とは「反応の進行が止まった状態」を示すものと解される。

本来、「プラトー」(PLATEAU)とは、「高原」とか「台地」を意味する地理用語であり、各種辞典の記載によっても、地理用語としての意味の他には、心理学や電気等、分野の相違こそあれ、一般用語として定義すれば「変化のなくなった状態」を指し示すものであると解すべきであり、このことは、前述のとおり、本件発明における「プラトー」が「反応の進行が止まった状態」と解されることとも一致する。

本件特許請求の範囲において、狭義のエンドポイントであることを意味する「プラトーに達せしめ」という用語をわざわざ用いたのは、反応時間のコントロールが容易で一定時間で吸光度を測定することが可能な「高価な自動分析装置」を用いずに、精度高く測定するには、反応が一定になった状態で測定することが不可欠だからである。レイト法と区別するためであれば「プラトーに達せしめ」と表現するはずはない。

(2) 一方、イ号方法においては、本件特許方法とは異なり、吸光度測定時には反応が進行中であり、本件発明の技術的範囲に属するものでないことは明らかである。

すなわち、イ号方法において吸光度を測定するのはR-1添加後およびR-2添加後各五分の時点(この時点は自動分析装置における吸光度測定可能な最終時点であって反応の終点ではない。)であって、この段階では免疫反応が依然として進行中であるから、本件発明の「プラトーに達せしめた後」の要件に該当しない。

なお、仮に誤差範囲を考慮しても、イ号方法における五分の時点の反応率変化は誤差の範囲を超えた有意的な上昇であるというべきであるから、「プラトーに達せしめた後」という要件を具備しないのである。

さらに、「プラトー」とは、ある状態の変化(本件でいえば反応の進行)がなくなったことをいうのであって、測定結果(本件でいえばCRP値)から論ずることはできない。したがって、たとえ測定結果が近似するからといってプラトーに達したという条件を具備するとはいえない。

(3) 本件発明においては、四種の液を調製し、「それぞれ」インキュベートして吸光度を測定することを要件としている。したがって、本件特許方法においては二液ずつの混合液をそれぞれインキュベートして吸光度を測定する。これに対し、イ号方法では二液の混合液(右<1><3>)をインキュベートして吸光度を測定し、この二液の混合液にさらに一液を加えて(右<2><4>)再度インキュベートして吸光度を測定しており、インキュベートも「検体血清系」と「精製水系」の二系統で二回ずつ行っている。

イ号方法はインキュベートの順序が本件特許方法とは全く異なり、「それぞれインキュベートして吸光度を測定する」という要件を充足しない。

(四) 構成要件「f」について

本件発明において、吸光度の測定につき、単に四種類の液の吸光度を測定した上、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

という単なる引き算の形で求めている。

これに対し、イ号方法においては、測定した吸光度に液量補正kを考慮して、検体を用いた場合の吸光度Ax及び精製水を用いた場合の吸光度Wxが演算され、Ax-Wxが演算されるものであって、両者は液量補正値kの考慮が必要であるか否かの点で、明確に吸光度算定の数式を異にしているものである。

なお、イ号方法の算定式は本件特許の出願前に販売されていた日立七〇五形(同七〇五〇形も含む。以下同じ。)自動分析装置の演算モードである「二ポイントアッセー」を適用しているのであり、液量の補正等、本件特許請求の範囲において、明確に規定されている算定式とは異なるのであり、算定式が異なることは両者の方法自体が異なることにほかならない。

(五) 禁反言の主張ないし出願前公知の主張について

(1) 異議申立に対する答弁

原告は、本件特許の出願段階において、昭和五五年に販売され、各種分析モードと演算パラメータが搭載されていた日立七〇五形自動分析装置について(なお、イ号方法はこれをそのまま用いている。)、本件特許の操作方法は、日立七〇五形自動分析装置にそのまま適用することはできない旨を述べた。

すなわち、原告は、平成四年五月一八日付高橋栄古による異議申立に対する答弁書一二頁一四行~一三頁五行で、「本願発明において規定されている計算方法を実行するためには一チャンネルでは不可能であり、二チャンネル測定が要求されますが、…鋭意検討の結果種々の変更(試薬の量や装置の計算パラメータの変更等)を加えることにより当該分析装置による自動測定の適用に成功し…」と述べ、日立七〇五形に適用するには種々の変更が必要であった旨明言している。つまり、日立七〇五形が有する分析モードと演算パラメータ(イ号方法が使用している2ポイントアッセイ)では、液量が一定とならないため、液量補正を行うことになっており、本件発明における工程と計算式は適用できなかったと答弁して日立七〇五形の機能そのものでは本件特許方法を実施することはできないと述べた。

また、原告は、平成四年五月一八日付北端勲による異議申立に対する答弁書七頁においても、「株式会社日立製作所製の七〇五形自動分析装置への適用は、当該装置の構成上、上記の試薬を用手法の要領で使用することはできなかった…当該分析装置を使用して自動分析する場合の専用試薬として…を開発し…」と述べている。本件発明はあくまでも実施例に即した用手法の原理を前提として、答弁しているのである。

原告は、本件特許請求の範囲の解釈について、異議申立に対する答弁と異なることを述べており、かかる主張は禁反言の見地からも許されない。

(2) 出願前の公知技術の状況

本件特許出願前に公開された免疫比濁法によるCRP測定法に関する甲第一八号証(特開昭五三-八六〇一五号)では、低濃度のCRPの測定が免疫比濁法で実施されていたことが開示されているが、ここでは、検体ごとにブランクをとること、時間がかかることの二点を克服することが課題であった。

日立七〇五形自動分析装置が、昭和五五年八月に発表され、同年一〇月に出荷された。日立七〇五形自動分析装置は、2ポイントアッセイによる測定を自動的に行えるよう構成され、また、反応後五分間で測定するように構成されていたため、それを使用すれば右問題点が解決されることとなった。右七〇五形自動分析装置の取扱説明書によれば、免疫比濁法で、試薬ブランク、検体ブランク、バッファブランクの各ブランク液の吸光度を加減する計算(但し、2ポイントアッセイ法)が右七〇五形自動分析装置では自動的に行われていた。

昭和五七年五月二六日付けの「七〇五形新分野への応用(その4)」と題する日立理化学機器セールスインフォメーション(甲第一九号証)には、CRPを免疫比濁法で測定し、検体ブランク補正、試薬ブランク補正を行うこと、すなわち、イ号方法が、そのまま記載されている。

右セールスインフォメーションは、本件特許出願前の昭和五七年五月二六日に発行された。そして、「即日」実施のため、右セールスインフォメーションは、販売会社((株)日立メディコ、日製産業(株))及びアフターサービス会社(日立計測器サービス(株))に渡されている。また、右セールスインフォメーションについては、販売会社及びアフターサービス会社が自由に顧客に渡して良いこととなっていた。したがって、右セールスインフォメーションに記載された方法は、既に本件特許出願前に公知となっていた。

2  間接侵害の成否

(原告の主張)

イ号製品は、以下のとおりの理由から、本件発明の実施にのみ使用する物であるから、イ号製品の製造販売は、本件特許権の間接侵害に当たる。

(一) キットであることによる使用目的の限定

イ号製品は、CRP R-1とCRP R-2とのキットである。

イ号製品に関する医薬品製造承認書別紙2には、「1 CRP R-1・・・ 2 CRP R-2・・・ 上記1、2の構成試薬を組合せてキットとする。なお、各構成試薬は別途補充用として製することがある。」と記載されている。R-1とR-2を別個に製造する場合には、同キットの補充用としてのみ製造販売されることは明らかである。実際上も、キット製品を本来の使用目的であるイ号方法以外のために、商業的、実用的意味で使用することは不可能である。

(二) 薬事法による使用目的の限定

イ号製品は、薬事法により承認された用途のためにのみ製造販売できるが、医薬品製造承認書の別紙3「用法および用量」には「(1)自動分析装置を使用する。(2)所定量の検体にR-1を所定量加え、所定温度で所定時間加温した後、340nm付近の波長で自動分析装置(分光光度計)を用いて測光し、さらにR-2を所定量加え、所定温度で所定時間加温後、340nm付近の波長で自動分析装置(分光光度計)を用いて濃度を求める。」と記載されている。これは自動分析装置のエンドポイントモードの2ポイントアッセイ演算モードを選択した場合に自動的に行われる工程である。また、同「6効能または効果」の項には「血清中のC反応性蛋白(CRP)の定量」と記載されており、さらに、イ号製品の添付書類である使用説明書の「3測定方法(測定原理)」の項には「本測定法は抗原抗体反応を利用した免疫比濁法です」と記載されている。

以上から明らかなとおり、イ号製品は自動分析装置を用いる免疫比濁法のエンドポイント法の2ポイントアッセイによる血清CRPの定量法、すなわち本件発明の自動分析装置を用いる実施態様に使用されるものとしてのみ製造販売することが薬事法上許容される製品である。

(三) 専用試薬であることによる制限

実際上も、一般に、自動分析装置用試薬は、適合機種の自動分析装置のモードに合わせて調製してあるから、事実上それ以外の自動分析装置にも使用することはできない。仮にできても、実用に耐える精度・効率は得られないから、商業的・実用的な意味で使用することはできない。

(四) 以上の理由により、イ号製品はイ号方法にのみ使用され、イ号方法は、前述のとおり、本件特許方法の一実施態様にほかならないから、イ号製品は「発明の実施にのみ使用する物」である。

なお、被告らは、イ号製品の使用方法が、イアトロメイトCRPを株式会社日立製作所製七〇五形自動分析装置に使用した場合とイアトロメイトCRP(A)を同社製七〇五〇形自動分析装置に使用した場合の二つに限られると主張していることに照らすと、イ号製品は「発明の実施にのみ使用する物」であることについては自白が成立する。

(被告らの反論)

イ号製品は、汎用品であって、本件発明の実施にのみ使用する物ではないから、イ号製品の製造販売は、本件特許権の間接侵害に当たらない。

(一) 被告ヤトロンがイアトロメイトCRP、イアトロメイトCRP(A)について承認を受けた内容は、次のとおりである。「(1)自動分析装置を使用する。(2)所定量の検体にR-1を所定量加え、所定温度で所定時間加温した後、340nm付近の波長で自動分析装置(分光光度計)を用いて測光し、さらにR-2を所定量加え、所定温度で所定時間加温後、340nmの波長で自動分析装置(分光光度計)を用いて濃度を求める。」

その他、イアトロエースCRP、イアトロエースCRP(A)及びイアトロCRP(TIA)についても承認を受けた内容は右と同じである。

したがって、被告らが製造・販売している右各CRP試薬については、緩衝液ブランクはもちろん、抗体ブランクについても、その測定は必須ではない。

(二) しかも、緩衝液(R-1)と抗CRP血清と緩衝液からなる抗CRP血清溶液(R-2)を一緒にキットとしているのは、製品番号では、イアトロメイトCRPの「702-801」、「705-801」及びイアトロメイトCRP(A)の「702-802」のみであり、ほとんどの商品は、R-1とR-2をそれぞれ別個に販売している(イアトロエースCRP(A)には、一〇種類の製品があるが、そのうち、キット品は、右「702-802」のみである。)。これは、R-1とR-2を別個に購入したいというユーザーの希望によるものであり、現在は、この個別販売が主流である。

R-1とR-2は、それぞれ別個に販売している場合はもちろん、キットとして一緒にパックされていても、両者別個に使用し、また、イ号方法と異なる方法に用いることは可能であり、たとえば、用手法で、<1>検体とR-2(抗原抗体反応)、<2>検体とR-1(検体ブランク)、<3>精製水とR-2(抗体ブランク)の3種類の液を調製して、それぞれの吸光度を測定することも可能である(緩衝液ブランクは、もともと大きな数値を示さないから、その測定をしなければ、CRPの測定ができないというものではない。)。

3  損害額

(原告の主張)

被告ダイアヤトロンが、本件特許権の公告日である平成四年二月一九日から平成八年末までに販売した血清CRP定量のための検査薬の売上高は、三四億一七八一万円と推定される。原告が通常受けるべき実施料相当額は売上高の五パーセントが相当であるから、原告は、被告らの共同不法行為により一億七〇九三万五五五〇円の損害を被った。したがって、被告らは、これを連帯して賠償すべき責任を負う。原告は、本件訴訟において、その内金六〇〇〇万円及びこれに対する催告書到達の翌日である平成九年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  争点に対する判断

一  イ号方法と本件発明の構成の対比について

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成要件「a」ないし「d」、「e」、「f」を充足しないので、原告の主張は失当である。

1  本件発明の技術的範囲について

本件発明の技術的範囲につき、特許請求の範囲の記載を基礎として、本件特許出願手続における補正及び異議申立の経緯等を考慮すると、以下のとおり確定することができる。順に検討する。

(一) 本件特許請求の範囲の記載

(1) 本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「検体血清と抗血清使用液との混合液である被検液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(2) 右記載から明らかなとおり、<1>調製する四種類の液は、被検液T、検体ブランク液SB、試薬ブランク液RB及び緩衝液ブランク液BBであること、<2>インキュベートしてプラトーに達せしめる対象とされる液は、「それぞれ」の液であること、<3>吸光度を測定する対象とされる液は、「それぞれ」の液であること、<4>測定される吸光度は、AT、ASB、ARB及びABBである。

そうすると、右記載に係る用語・文章を忠実に理解するならば、本件特許方法は、<1>検体血清と抗血清使用液とを混合して、被検液Tを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(AT)を測定し、<2>検体血清と検体ブランク緩衝液とを混合して、検体ブランク液SBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ASB)を測定し、<3>生理食塩液と抗血清使用液とを混合して、試薬ブランク液RBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ARB)を測定し、<4>生理食塩液と検体ブランク緩衝液とを混合して、緩衝液ブランク液BBを調製し、これをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、その液の吸光度(ABB)を測定し、<5>前記<1>ないし<4>の結果を受けて、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)式ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)として算定する方法であると解するのが相当である。

(二) 本件特許出願の経緯

(1) 補正の内容

(ア) 原告は、昭和五七年七月三〇日及び同年八月二四日、特許請求の範囲の記載を、以下のとおり、補正した。

「被検液(T)及が試験液(RB)並びにこれらのブランク液(SB及びBB)を調製し、これらをインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

により算定し、一方上記と同様に但し血清の代わりにCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を作成し、上記算定吸光度値に該当するCRP値を上記検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(イ) これに対して、審査官は、平成二年一一月八日、「免疫比濁法により、各種の抗原成分を測定することは、本願出願前より周知であり(例えば、特開昭52-125623号)、これを、CRPの測定に適用することは、当業者が容易になし得たものと認められる」との理由により、拒絶査定を行った。

(ウ) そこで、原告は、審判請求を行った上、平成三年一月二八日、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を補正し、現在の特許請求の範囲とした。

右補正された特許請求の範囲は、次の傍線部である。

「検体血清と抗血清使用液との混合液である被検液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキュベートしてプラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。」

(エ) 原告は、右補正に基づき、審判請求の理由として、拒絶査定での引例は、「免疫比濁法による測定原理そのものであり、当該原理に基づくものであり且つ特許保護の対象となるべき特定の具体的な手法ではないのです。」とした上、本件発明の内容について次のとおり述べた。

「本願発明は、当時における上記のような技術水準において既述の課題、通常の即ち一般の光学的濁度計を用いる比濁法では検出限界以下であって測定不可能と考えられ、又・・・ルーチン検査法では検出限界に近く且つ定量測定が極めて困難乃至不可能とされ、一方レーザー比濁法は測定感度は充分であるが実用的には課題があるとされていた血清CRPの測定を通常の光学的濁度計の使用を以って可能ならしめたものです。

本発明方法では、このために、先ず

a)下記の4種類の液、すなわち

ⅰ) 被験液(T):

検体血清と抗血清使用液との混合液、

ⅱ)検体ブランク液(SB):

検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液、

ⅲ)試薬ブランク液(RB):

生理食塩液と抗血清使用液との混合液、

及び、

ⅳ)緩衝液ブランク(BB):

生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液

とを調製し、

b)上記の各液を、それぞれ、インキュベートしてプラトーに達せしめた後に、

c)各液の吸光度(AT、ASB、ARB及びABB)を測定し、

d)得られた各吸光度値を次式、すなわち

AT-ASB-(ARB-ABB)

に算入して得られた値を検体血清の吸光度(ACRP)とし、

e)上記のa)-d)項と同様にして、但し検体血清の代わりにCRP濃度が既知の且つ種々濃度のCRP標準液を用いてインキュベートし、プラトーに達した各液の吸光度を測定することにより吸光度値とCRP値乃至濃度との関係を示す、所謂「標準検量線」を予め作成しておき、

f)前記のd)項での算出により得られた吸光度値(ACRP)を上記のe)項で得た標準検量線に照合するのです。

このような本発明方法、殊に上記の工程の内のa)-d)の工程[工程e)及びf)自体周知の工程です]は前審引例文献に開示はおろか、示唆すらされておらず、又当該分野の通常の技術者が窺い知り得る処ではなかったのです。」

さらに、原告は、本件発明の構成が前記ⅰ~ⅳからなることを強調し、「このような本発明方法、殊に上記の工程の内のa)-d)の工程・・・は前審引例文献に開示はおろか、示唆すらされておらず、又当該分野の通常の技術者が窺い知り得る処ではなかったのです。」と述べている。

(右(ア)ないし(エ)の事実は、甲四〇ないし四二(枝番省略。以下同じ。)、乙一四ないし一六により認める。)

(2) 右出願経緯と本件発明の技術的範囲の解釈

右のとおりの出願経緯に照らすならば、右補正は、各液の構成を具体的に特定し、四種類の液をそれぞれ調製し、それぞれインキュベートしてプラトーに達せしめ、各液の吸光度を測定することを明確にした趣旨であることが明らかである。すなわち、原告の拒絶査定に対する不服審判における主張によれば、原告は、本件特許方法は、前記(1)(エ)ⅰ~ⅳ記載の具体的な構成を有する混合液を用いる旨明確にした上で、本件発明に係る特許権を取得したものであるというべきである。

以上のとおりの補正の内容及び審判での原告の主張の内容によれば、本件発明の技術的範囲は、前記(一)(2)に記載のとおりと解するのが相当である。

(三) 異議申立の経緯

(1) 異議申立及び答弁の内容

平成四年五月一八日に高橋栄古が異議申立てをし、日立七〇五形自動分析装置取扱説明書を引用したところ、これに対して、原告は、平成四年一一月二七日、答弁書を堤出した。その中には、次のとおりの記載がある。

「甲第2号証に係る株式会社日立製作所製の705形自動分析装置に本願発明による定量法の理論、延いては本願発明方法において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しない」(七頁一四行~一八行)

「日立705形自動分析器は、本発明が関与する比濁定量ではなく、比色定量を基本とする生化学物質の測定用に設計されており、生化学物質の比色定量に際しては緩衝液ブランク液(BB)に関する吸光度(ABB)を無視し得ることが既述のように実験的にも証明されておりますので、当該値ABBの取扱いに関する概念は全く導入されておりません。」(一一頁一六行~一二頁二行)

「本願発明は、先ず汎用の分光光度計を測定機器とする用手法として確立され、そのための試薬が本出願人会社から『TIAテスト-CRP「ニッスイ」』として市販され、次いで本発明方法の自動化のために甲第2号証に示される自動分析装置への適用を試みましたが、これは容易ではなかったのです。何故ならば、本願発明において規定されている計算方法を実行するためには1チャンネル測定では不可能であり、2チャンネル測定が要求されますが、2チャンネル測定を用いると検量線が設定できず、精度確保には手計算が必要となり、自動分析の意味の失われることが判明したのです。そこで鋭意検討の結果種々の変更(試薬の量や装置の計算パラメータの変更等)を加えることにより当該分析装置による自動測定の適用に成功し、当該分析装置を用いる場合の専用試薬として『TIAテスト-CRPII「ニッスイ」705』を別途に販売するに至っているのです。」(一二頁八行~一三頁五行)

(甲一五により認める。)

(2) 右異議申立時の答弁の経緯と本件発明の技術的範囲の解釈

以上の経緯に照らすならば、原告は、異議手続の中で、<1>株式会社日立製作所製の七〇五形自動分析装置には、本件発明において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しないこと、<2>右自動分析装置には、本件発明に規定された緩衝液ブランク液(BB)に関する吸光度(ABB)の取扱いに関する概念が全く導入されていないこと、<3>本件発明の右装置への適用は容易ではなかったため、計算パラメータの変更を含む種々の変更を加えなければ、右装置による自動測定の適用ができなかったこと、を明確に述べているのであるから、右装置において実施される方法に、本件発明における計算式で示される方法が含まれていないことを自ら主張しているものと解することができる。

この点について、原告は、右答弁書において、本件特許の出願時点では、日立七〇五形自動分析装置は生化学物質の測定用として設計されており、血清CRPの定量用として計算式が組み込まれておらず、したがって、該装置に本件発明の理論と同じ理論が生化学物質の測定用として取り込まれていたとしても、発明の新規性を喪失するものではない旨を述べたにすぎないと主張する。しかし、右装置において測定物質が何であるかによって右装置に組み込まれた計算式それ自体が変化するわけではないのであるから、原告自ら、答弁書において、右装置に本件発明において規定されている計算式が組み込まれている事実は存在しないと述べている以上、答弁書における記載を原告の本訴において主張するような趣旨に解することはできない。

2  イ号方法について

イ号方法は、一方で、<1>「検体と緩衝液R-1との二液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<2>これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた「検体と緩衝液R-2と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<3>前記<1>及び<2>の結果に液量補正kを考慮して、検体を用いた場合の吸光度Axが演算され、他方で、<4>「精製水(又は生理塩水。この点については争いがある。以下単に「精製水」とのみ記載する。)と緩衝液R-1との二液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<5>これにさらに抗CRP血清溶液R-2を加えた「精製水と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液」をインキュベートしてその吸光度を測定し、<6>前記<4>及び<5>の結果に液量補正kを考慮して、精製水を用いた場合の吸光度Wxが演算され、<7>前記<3>及び<6>の結果から、Ax-Wxが演算される、というものである。

(なお、右液量補正kは次の式で表される。

<省略>

S、R1、R2はそれぞれ、検体量、R-1の添加量、R-2の添加量を意味する。)

3  本件発明の構成とイ号方法の対比

そこで、前記1における本件発明の技術的範囲の解釈を前提として、本件発明の構成とイ号方法との同一性を検討する。

(一) 構成要件「a」ないし「d」及び「e」について

吸光度の測定対象液及びインキュベートの対象液について、本件発明においては、対象液が、<1>検体血清と抗血清使用液との混合液である被検液T、<2>検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SB、<3>生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RB、及び<4>生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBであるのに対し、イ号方法においては、<1>検体と緩衝液R-1との二液の混合液、<2>検体と緩衝液R-2と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液、<3>精製水(又は生理食塩水)と緩衝液R-1との二液の混合液、<4>精製水(又は生理食塩水)と緩衝液R-1と抗CRP血清溶液R-2との三液の混合液である。

したがって、右<2>及び<4>の点については、本件発明においては二液の混合液を測定しインキュベートするのに対し、イ号方法では三液の混合液を測定しインキュベートするものであるから、対象である混合液の構成要素の数において異なる。

よって、被告方法は、本件発明の構成要件「a」ないし「d」及び「e」を充足しない。

(二) 構成要件「f」について

吸光度の測定について、本件発明においては、単に四種類の液の吸光度を測定した上、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB(ARB-ABB)

という単なる引き算の形で求めているのに対し、イ号方法においては、測定した吸光度に液量補正kを考慮して、検体を用いた場合の吸光度Ax及び精製水を用いた場合の吸光度Wxが演算され、Ax-Wxが演算されるものであって、両者は液量補正値kの考慮が必要であるか否かの点で、明確に吸光度算定の数式を異にしているものである。

よって、被告方法は、本件発明の構成要件「f」を充足しない。

二  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 平4-9262

<51>Int.Cl.3G 01 N 33/52 識別記号 庁内整理番号 7055-2J <21><44>公告 平成4年(1992)2月19日

発明の数 1

<54>発明の名称 免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法

審判 平2-22913 <21>特願 昭57-94038 <65>公開 昭58-211659

<22>出願 昭57(1982)6月3日 <43>昭58(1983)12月9日

<72>発明者 柴田英昭 埼玉県春日部市新方袋1282-8

<72>発明者 梅田衛 茨城県猿島郡総和町上辺見474-1

<71>出願人 日水製薬 株式会社 東京都豊島区巣鴨2丁目11-1

<74>代理人 弁理士 佐々木功

審判の合議体 審判長 服部 平八 審判官 山田充 審判官 平塚義三

<57>特許請求の範囲

1 検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキユベートしてブラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(A、TASB、ARB及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP直の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることを特徴とする、免疫比濁法による血清CRPの簡易迅速定量法。

発明の詳細な説明

本発明は血清CRPの簡易迅速定量法に係り、殊に免疫比濁法を利用する定量法に係る。

周知のように、CRPは急性相反応性血漿蛋白成分の一種であり、種々の炎症性及び組織崩壊性疾患に際して出現する非特異的蛋白成分であつて、生体に上記疾患が生した場合に6~24時間以内の短時間で増量しその回復に伴ない減量消失すると謂う特徴を有しており、従つてその検査は臨床上不可欠とされている。

従来におけるCRP倹査法としてはルーチン検査法例えば毛細管法、ラテックス凝集法、一元免疫拡散法等が使用されて来たが、これら測定法ではCRP値の変動を時間の経過と共に定量的に把握することが不可能であつたり、測定感度、精度や操作時間等の問題により特に低値域におけるCRP値の変動の把握に難点がある等の欠陥があつた。

しかしながら最近では、検出方法の進歩により血漿中の種々の微量蛋白が定量的に測定し得るようになりつつある。この検出方法の代表例が比濁法であり、既述のルーチン検査法に代つて普及しつつある。

但し近年普及して来たこの比濁法はレーザー比濁計等を用いているので高感度ではあるが、その有用性については絶対的なものとは云えないのが実情である。蓋し、機器が極めて高価であるのみならず、測定精度や測定範囲に問題があり、又高感度故に試薬や検体血清の澄明度に特別の注意を払う必要があるのでその前処理が煩雑となる等の欠点が存在するからであり、更にはレーザー比濁法は脂濁血清、黄疸血清又は溶血血清を検体とする場合に不適当であり、又不活化しない血清では可成りのバラツキの出ることが報告されているからである.

斯くて、本発明の目的は、免疫比濁法を利用するものではあるが、特殊にして高価な機器を必要とせずに、安定且つ良好な精度にて実施し得る血清CRPの比較的迅速な定量法を提供することである.

本発明によれば、この目的は検体血清と抗血清使用液との混合液である被験液Tと、検体血清と検体ブランク緩衝液との混合液である検体ブランク液SBと、生理食塩液と抗血清使用液との混合液である試薬ブランク液RBと、生理食塩液と検体ブランク緩衝液との混合液である緩衝液ブランク液BBとを調製し、これらをそれぞれインキユベートしてブラトーに達せしめた後に、それぞれの液の吸光度(A、TASB、ARB、及びABB)を測定し、CRPによる検体血清の吸光度(ACRP)を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)として算定し、一方上記と同様に、但し検体血清の代わりに各種濃度のCRP標準液を用いて吸光度-CRP値の関係を示す検量線を予め作成しておき、上記の算定吸光度値に該当するCRP値を上記の検量線から求めることにより達成される.

抗原-抗体複合体は光を消散し或は吸収するが、同じ濁度(吸光度)は抗原過剰状態でも或いは抗体過剰状態でも得られる可能性がある.免疫比濁法による血清CRPの定量に際しては吸光度測定を抗体過剰状態で行ない抗原過剰状態のものとは之を区別せねばならない。従つて、このためには特異性が高く且つ高力価の抗血清が必要とされる。

本発明方法に使用されるこの種の抗血清としては例えば抗ヒトCRPヤギ血清から得られたγ-グロブリン分画がある。

次に、試薬、標準液測定方法、結果等に関連して本発明方法を更に詳細に説明する。

a) 試薬及び標準液

1) 緩衝液

ⅰ) 抗血清希釈緩衝液

HEPES buffer pH7.1

0.01M HEPES

0.1M NaCl、0.1% NaN、

ⅱ) 検体緩衝液

PEG6000 3%

Tween20 0.2%

ⅲ) 検体ブランク緩衝液

(抗血清希釈緩衝液を検体緩衝液で11倍に希釈したもの)

2) 希釈液

CRP標準液及び検体の希釈用であつて、生理食塩水をベースとする3%ウシアルブミン液とヒトプール血清(CRP除去)との7対3混液

3) 生理食塩液

4) CRP1次標準液

ガン患者のプール腹水からイオン交換クロマト、ゲル〓過でCRPを純化したもの。その純度はアクリルアミド電気泳動法、オクタロニー法、免疫泳動法で確認され、このCRP標準液の濃度は蛋白定量、アフイニテイークロマトグラフイー及びSRID法により決定された。

5) CRP2次標準液

プール腹水から硫酸アンモニウム分画により得た組CRPを希釈液で一定の濃度に希釈したものであつて、その濃度は1次標準液を用いSRID法により決定された。この2次標準液は4℃に維持する場合には少なくとも6ケ月間に亘り安定である。

6) 抗CRP血清

抗ヒトCRPヤギ血清から得たγ-グロブリン分画を抗血清希釈緩衝液に溶解したものであつて、その特異性はオクタロニー法及び免疫電気泳動法により確認された。

7) 抗血清原液

抗血清希釈緩衝液により2倍に希釈された坑CRP血清。この原液は4℃に維持する場合には少なくとも12ケ月間安定である。

8) 抗血清使用液

検体緩衝液により抗血清原液を11倍に希釈し、ミリボアフイルタ(ボアサイズ0.45μm)で〓過したもの。

b) 測定法

下記表

被験液(T) 検体ブランク液(SB) 試薬ブランク液(RB) 緩衝液ブランク液(BB)

検体血清 50μl 50μl - -

抗血清使用液 2.0ml - 2.0ml -

被験液(T) 検体ブランク液(SB) 試薬ブランク液(RB) 緩衝液ブランク液(BB)

検体ブランク緩衝液 - 2.0ml - 2.0ml

生理食塩液 - - 50μl 50μl

に見られる4種の液を調製し、各液を37℃でインキユベートした後に波長340nmでの吸光度を測定し、検体血清の吸光度を式

ACRP=AT-ASB-(ARB-ABB)

により算定し、一方上記と同様にして但し血清の代りにCRP2次標準液を用いて操作して吸光度-CRP濃度に関する検量線を作成し、上記算定吸光度値に該当するCRP値を上記検量線を利用して求めることにより測定する。

e) 結果

ⅰ) 経時変化

CRP2次標準液を用いそのCRP濃度が164mg/l(a)、63mg/l(b)、15mg/l(c)及び4mg/l(d)の場合の吸光度変化(AT-ASB)について、又ARB-ABB(c)について120分間に亘り追究した処、反応は略々15分間で一定となり、その後は吸光度が変化しないことが判明した(第1図参照)。これはインキユベート時間が15分程度で充分なことを示している。

ⅱ) 沈降素曲線

抗血清使用液f及び希釈抗血清使用液g(検体ブランク緩衝液にて抗血清使用液を1/2に希釈したもの)を用いて沈降素曲線を追究した処、第2図に見られる通りであり、曲線は比較的緩やかであり、従つてこの抗血清は免疫比濁法に使用するに当つて充分な高力価を有し且つ測定範囲の汎いものであることが判る。

ⅲ) 検線

CRP2次標準液を用いてそのCRP濃度が8.0、29.5、65.0、114.5、164.0及び220.0mg/lのものを調製し、1日1回とし5日間に亘り吸光度を測定し、その平均値をCRP値に関してプロツトした処、第3図に示される通りであり極めて安定した直線性が得られた。尚CRP値が220mg/l以上となると次第にスローブを呈する。

ⅳ) 測定値と算定値との相関性

CRP2次標準液を希釈してCRP値が7段階の検体(即ちCRP値が220、163、122、62、36、17及び9mg/lのもの)を調製し、測定値と算定値との関係につき5回の平均値をプロツトした処、第4図に見られる通り安定した直線が得られた。

このことは、本方法がCRP値が220mg/l又はそれ以下の検体を良好な精度で測定し得ることを示している。

ⅴ) 干渉物質の影響

ビリルビン及びヘモグロビンを血清に添加して測定したが、これら添加物質がCRP値に及ぼす影響は第5図a及びbに示されるように殆人ど見られなかつた。

尚、脂濁血清、黄疸血清及び溶血血清に関する本方法による測定値は次の各表に示される通りSRID法による測定値と類似した値を示した(レーザー比濁法による測定値とも相関関係の存在を示している。但し脂濁血清に関してはレーザー比濁法では測定不能であった)。

これらの事実は、レーザー比濁法で必要とされる検体血清の特別な前処理が、本発明では不要であることを如実に示している(表中の数値の単位はmg/lである)。

脂濁血清検体

添加物質 方法

トリグセリド 本法 レーザー比濁法 SRID法

2580 4280 4720 5480 6440

64 - 60 23 - 17 73 - 70 121 - 106 79 - 67

黄疸血清検体

添加物質 方法

ビリルビン 本法 レーザー比濁法 SRID法

18 47 70 72 97

11 12 8 122 - 125 13 14 9 41 39 43 101 86 102

溶血血清検体

添加物質 方法

ヘモグロビン 本法 レーザー比濁法 SRID法

400 600 800 1000 1400

26 64 16 50 49 48 46 39 46 1 - - 10 5 8

叙上のように、本発明方法では測定値と計算値とが極めて良好な直線的相関関係を呈するので、機器として分光光度計さえあれげ血清CRPの定量測定が可能であり、これに検量線記憶、自動ブランク補正、ブリントアウト等の装置が付属していれば、その測定を迅速ならしめることができ、更には測定自体の自動化が可能である。

図面の簡単な説明

第1図はCRP濃度と吸光度との経時変化を示すグラフ、第2図は抗血清液の沈降素曲線を示すグラフ、第3図は検量線をその経日測定再現性と共に示すグラフ、第4図は測定値と計算値との関係を示すグラフ、第5図は干渉物質のCRP値に及ぼす影響を示すグラフであつて、第5図a及び第5図bは干渉物質としてそれぞれビリルビン及びヘモグロビンを添加した場合を示したグラフである。

第5図

<省略>

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

物件目録一

一、イアトロメイトCRP

キットの構成

(1) CRP R-1(緩衝液) ・・・一四〇ml×1

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM(ミリモル)

(2) CRP R-2(抗CRP血清溶液) ・・・一四〇ml×1

抗ヒトCRP血清(ウサギ) ・・・力価〇・六単位

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM

二、イアトロメイトCRP(A)

キットの構成

(1) CRP R-1(緩衝液) ・・・三五ml×4

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM(ミリモル)

(2) CRP R-2(抗CRP血清溶液) ・・・二〇ml×1

抗ヒトCRP血清(ウサギ) ・・・力価一・五単位

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM

物件目録二

ヤトロン株式会社・ダイアヤトロン株式会社の製品

一、イアトロエース CRP 製造承認番号 (六二AM)第一一三九号

二、イアトロエース CRP(A) 製造承認番号 (六二AM)第一一三九号

三、イアトロメイト CRP 製造承認番号 (六二AM)第一一三八号

四、イアトロメイト CRP(A) 製造承認番号 (六二AM)第一一三八号

五、イアトロCRP(TIA) 製造承認番号 (〇五AM)第〇六二八号

方法目録一

イ号方法

第一、イアトロメイトCRPを株式会社日立製作所製七〇五形自動分析装置(本項において以下「装置」という。)に使用した場合

一、以下の構成によるキットを用いる。

(1) CRP R-1(緩衝液) ・・・一四〇ml×1

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM(ミリモル)

(2) CRP R-2(抗CRP血清溶液) ・・・一四〇ml×1

抗ヒトCRP血清(ウサギ) ・・・力価〇・六単位

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM

二、装置の指定箇所にキット中の緩衝液R-1および抗CRP血清溶液R-2、ならびに検体、CRP既知濃度の標準品(別売)をセットする。

三、装置の搭載機能に従い、以下の各パラメーターを装置の操作スイッチにより入力する。

<1> 分析モード・・・2ポイントアッセイ

<2> 演算モード・・・Two Point Assay

<3> 検体量・・・一五μl(マイクロリッロル)

<4> R-1量・・・三五〇μl

<5> R-2量・・・三五〇μl

<6> 測定主波長・・・三四〇nm(ナノメートル)

<7> 測定副波長・・・七〇〇nm

<8> 標準品濃度・・・CRP標準品記載の濃度

四、装置のスタートボタンを押すと以下の操作が自動的に行われる。

(1) 反応容器内に精製水が分注される。

(2) (1)の「水ブランク」の吸光度αが測定される。

(3) 反応容器内の精製水が排出される。

(4) 反応容器内に検体一五μlが分注される。

(5) (4)の反応容器内に緩衝液R-1三五〇μlが分注され、撹拌される。

(6) (5)を一定温度(37℃)で反応させ、その吸光度βが20秒間隔で15回測定され、各測定値から(2)の吸光度αが差し引かれる。

[(β1-α)、(β2-α)、(β3-α)、・・・、(β15-α)]

(1回目~15回目)

(7) (6)の β15測定後、同反応容器に抗CRP血清溶液R-2三五〇μlが追加分注され、撹拌される。

(8) (7)をさらに「定温度(37℃)で反応させ、その吸光度γが20秒間隔で16回測定され、各測定値から(2)の吸光度αが差し引かれる。

[(γ16-α)、(γ17-α)、(γ18-α)、・・・、(γ31-α)]

(最初の測定から16回目~31回目)

(9) 以上の行程により測定した第1回目から第31回目の吸光度のうち、第14回目、第15回目、第30回目、第31回目に測定した吸光度に基づき、検体を用いた場合の吸光度Axが装置内蔵のコンピュータにより次の計算式から演算される。

<省略>

{右式中、kは液量補正値であり、次の計算式から求めた値出ある。

<省略>

なお、S・R1・R2は、それぞれ、検体量・R-1の検体量・R-2の添加量を意味する。}

(10) 同様に検体に代えてブランク用の精製水又は生理食塩水を用いて右記(1)~(9)の操作が行われる。

(11) 精製水又は生理食塩水を用いた場合の吸光度Wxが求められる。

(12)Ax-Wxが演算される。

(13) 以上と同様の操作がCRP既知濃度の標準品についても行われ、CRP濃度と吸光度との関係が演算されて(12)で求めた検体中のCRPの免疫反応による生成物質の吸光度から検体中のCRP濃度が算出される。

(14) 測定した検体中のCRP濃度がプリンタで印字される。

第二、イアトロメイトCRP(A)を株式会社日立製作所製七〇五〇形自動分析装置(本項において以下「装置」という。)に使用した場合

一、以下の構成によるキットを用いる。

(1) CRP R-1(緩衝液) ・・・三五ml×4

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM(ミリモル)

(2) CRP R-2(抗CRP血清溶液) ・・・二〇ml×1

抗ヒトCRP血清(ウサギ) ・・・力価一・五単位

ポリエチレングリコール ・・・三%

リン酸緩衝液 ・・・一〇mM

二、装置の指定箇所にキット中の緩衝液R-1および抗CRP血清溶液R-2、ならびに検体、CRP既知濃度の標準品(別売)をセットする。

三、装置の搭載機能に従い、以下の各パラメーターを装置の操作スイッチにより入力する。

<1> 分析モード・・・2ポイントアッセイ

<2> 演算モード・・・Two Point Assay

<3> 検体量・・・二〇μl(マイクロリッロル)

<4> R-1量・・・三五〇μl

<5> R-2量・・・五〇μl

<6> 測定主波長・・・三四〇nm(ナノメートル)

<7> 測定副波長・・・七〇〇nm

<8> 標準品濃度・・・CRP標準品記載の濃度

四、装置のスタートボタンを押すと以下の操作が自動的に行われる。

(1) 反応容器内に精製水が分注される。

(2) (1)の「水ブランク」の吸光度αが測定される。

(3) 反応容器内の精製水が排出される。

(4) 当該反応容器に検体二〇μlが分注される。

(5) (4)の反応容器に緩衝液R-1三五〇μlが分注され、撹拌される。

(6) (5)を一定温度(37℃)で反応させ、その吸光度βが20秒間隔で15回測定され、各測定値から(2)の吸光度αが差し引かれる。

[(β1-α)、(β2-α)、(β3-α)、・・・、(β15-α)]

(1回目~15回目)

(7) (6)のβ15測定後、同反応容器に抗CRP血清溶液R-2五〇μlが追加分注され、撹拌される。

(8) (7)をさらに一定温度(37℃)で反応させ、その吸光度γが20秒間隔で17回測定され、各測定値から(2)の吸光度αが差し引かれる。

[(γ16-α)、(γ17-α)、(γ18-α)、・・・、(γ32-α)]

(最初の測定から16回目~32回目)

(9) 以上の行程により測定した第1回目から第32回目の吸光度のうち、第14回目、第15回目、第31回目、第32回目に測定した吸光度に基づき、検体を用いた場合の吸光度Axが装置内蔵のコンピュータにより次の計算式から演算される。

<省略>

{右式中、kは液量補正値であり、次の計算式から求めた値である。

<省略>

なお、S・R1・R2は、それぞれ、検体量・R-1の検体量・R-2の添加量を意味する。}

(10) 同様に検体に代えてブランク用の精製水又は生理食塩水を用いて右記(1)~(9)の操作が行われる。

(11) 精製水又は生理食塩水を用いた場合の吸光度Wxが求められる。

(12) Ax-Wxが演算される。

(13) 以上と同様の操作がCRP既知濃度の標準品についても行われ、CRP濃度と吸光度との関係が演算されて(12)で求めた検体中のCRPの免疫反応による生成物質の吸光度から検体中のCRP濃度が算出される。

(14) 測定した検体中のCRP濃度がプリンタで印字される。

方法目録二

イ号方法

血清中CRP測定試薬を使用する、免疫比濁法による血清中CRPの簡易迅速定量法

一 使用する測定試薬

1、緩衝液であるR-1

2、抗CRP血清または抗CRP血清溶液であるR-2から成るキット

二、使用機種

二試薬系の2ポイントアッセイ法を有する自動分析装置

三、操作方法

使用される自動分析装置の仕様、操作手順に従い2ポイントアッセイで行う。

操作方法の具体例は左記のとおりである。具体例以外の被告製品を用い、具体例以外の自動分析装置を用いる場合もこれらに準ずる。

第一、イアトロメイトCRPを株式会社日立製作所製七〇五形自動分析装置(本項において以下「装置」という。)に使用した場合

一、以下の構成によるキットを用いる。

(1) CRP R-1(緩衝液)・・・一四〇ml×1

(2) CRP R-2(抗CRP血清溶液)・・・一四〇ml×1

二、装置の指定箇所にキット中の緩衝液R-1および抗CRP血清溶液R-2、ならびに検体、CRP既知濃度の標準品(別売)をセットする。

三、装置の搭載機能に従い、以下の各パラメーターを装置の操作スイッチにより入力する。

<1> 分析モード・・・2ポイントアッセイ

<2> 演算モード・・・Two Point Assay

<3> 検体量・・・一五μl(マイクロリッロル)

<4> R-1量・・・三五〇μl

<5> R-2量・・・三五〇μl

<6> 測定主波長・・・三四〇nm(ナノメートル)

<7> 測定副波長・・・七〇〇nm

<8> 標準品濃度・・・CRP標準品記載の濃度

四、装置のスタートボタンを押すと以下の操作が自動的に行われる。

(1) 反応容器内に精製水が分注される。

(2) (1)の「水ブランク」の吸光度が測定される。(この「水ブランク」の測定値は以後の各吸光度測定の過程で各吸光度から自動的に差し引かれるので、以後にいう「吸光度(値)」はこれを差し引いた後の値である。)

(3) 反応容器内の精製水が排出される。

(4) 反応容器内に検体一五μlが分注される。

(5) (4)の反応容器内に緩衝液R-1三五〇μlが分注され、撹拌される。

(6) (5)を一定温度(37℃)で反応させ、その吸光度が20秒間隔で15回測定される。

(7) (6)の測定後、同反応容器に抗CRP血清溶液R-2三五〇μlが追加分注され、撹拌される。

(8) (7)をさらに一定温度(37℃)で反応させ、その吸光度が20秒間隔で16回測定される。

(9) 以上の行程により測定した第1回目から第31回目の吸光度のうち、第14回目、第15回目に測定した吸光度の平均値(A1)および第30回目、第31回目に測定した吸光度の平均値(A2)に基づき検体を用いた場合の吸光度Axが装置内蔵のコンピュータにより次の計算式から演算される。

Ax=A2-kA1

{右式中、kは液量補正値であり、次の計算式から求めた値である。

<省略>

なお、S・R1・R2は、それぞれ、検体量・R-1の添加量・R-2の添加量を意味する。}

(10) 同様に検体に代えてブランク用の精製水又は生理食塩水を用いて右記(1)~(9)の操作が行われ、試薬ブランクの吸光度(A3)と緩衝液ブランクの吸光度(A4)が測定される。

(11) 精製水又は生理食塩水を用いた場合の吸光度(Wx)が次の式により求められる。

Wx=A4-kA3

(12) 検体中のCRPの免疫反応による生成物による吸光度(ACRP)が次の式により求められる。

ACRP=Ax-Wx

(13) 以上と同様の操作がCRP既知濃度の標準品についても行われ、CRP濃度と吸光度との関係を表す検量線が作成される。

(14) (13)で作成した検量線により(12)で求めた検体中のCRPの免疫反応による生成物質の吸光度(ACRP)から検体中のCRP濃度が算出される。

(15) 算出された検体中のCRP濃度がプリンターで印字される。

特許公報

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